診療メモ





メモ項目
予防接種の今後〜HPVワクチン・インフルエンザワクチンに関する最新の話題〜

国立病院機構三重病院 院長 庵原俊昭

 ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがある。麻疹や水痘のように、感染からの回復にCD8+細胞(キラーT細胞)が必要な感染症では、キラーT細胞が誘導できる生ワクチンが必須である。一方、B型肝炎や日本脳炎のように、感染の発症予防に抗体が重要な役割を果たしている感染症では、不活化ワクチンの効果が示されている。ヒトパピローマウイルスやインフルエンザウイルスは局所で感染して症状が出現するウイルスであり(局所性ウイルス感染症)、発症予防には局所のIgA抗体と血中から局所ににじみ出るIgG抗体が、感染予防に重要な役割を果たしている。  感染症の獲得免疫に関与する細胞として、ナイーブ細胞群、免疫記憶細胞群、免疫実行細胞群の3種類がある。ナイーブ細胞群は生まれつきもっている細胞であり、自然感染やワクチン接種により免疫記憶細胞群に変化する。免疫記憶細胞群は免疫実行細胞群の数を増やし、免疫実行細胞群は抗体産生細胞やキラーT細胞として、感染防御や感染からの回復に直接関与している。生ワクチンでは、1回の接種により多くの免疫実行細胞群が誘導できるが、不活化ワクチンでは、2〜3回の接種で先ず少量の免疫実行細胞群を誘導し(プライミング)、初回接種後6ヶ月以上あけて1回接種することで、抗体の産生を促すことができる(ブーステイング)。 一度誘導された免疫記憶細胞群は無くなることはないが、免疫実行細胞群は時間がたてば数が減少し、抗体が検出されなくなる。免疫記憶細胞群が誘導されておれば、抗体が検出されなくなっても、1回の追加接種で効果的な免疫が誘導される(ニ次免疫応答)。HBワクチンやHPVワクチンにおいて、2回の接種により免疫記憶細胞群が誘導されておれば、プライミングから数年経過していても、1回の接種でニ次免疫応答が認められる。不活化ワクチンでは、接種間隔を重んじるよりも、接種回数を合わせることが大切である。  HPV16型、18型は性行為により感染するウイルスであるが、HIVやクラミジアと異なり、多くの人(70%)が一度は感染するウイルスである。今回市販されるHPVワクチンは、HPV16型と18型の感染予防により、16型と18型が関与する子宮頚癌の発症予防を目的とするワクチンである。ワクチンの組成は、HPVウイルスDNAを含まないウイルス粒子(virus like particle, VLP)に、アジュバント(水酸化アルミ+MPL)を加えたものである。ワクチン接種により高い血中中和抗体を誘導し、その抗体が子宮頚部に滲み出ることにより感染したウイルスを中和し、感染を予防すると考えられている。細胞に感染したHPVウイルスを殺す作用はないが、再感染の予防は可能である。  日本では10歳以上の人への接種が勧められている。4週間隔で先ず2回接種し、初回接種6ヶ月以降に3回目を接種する。HPVワクチンは筋注である。  成人へのワクチン接種の成績から、今回出現したA/H1N1 2009パンデミックウイルスは新型インフルエンザウイルスではなく、多くの人が免疫記憶を持っているウイルスであり、昨シーズンまで流行していたA/H1N1ウイルスが大きく変異したウイルスである。20歳以上の多くの成人は、ワクチン接種前には2009パンデミックウイルスに対する抗体が検出されないが、1回の接種で効果的な免疫が誘導され、2回目接種にても抗体の更なる上昇は認められない(ニ次免疫応答)。成人試験の結果から、2009パンデミックワクチンは、季節性インフルエンザワクチンと同じ接種対策で効果が期待される。  インフルエンザワクチンでは、流行株とワクチン株の抗原性が一致すると予防効果が高く、ずれが大きいと予防効果が低下する。また、年齢が高くなるにつれて抗体反応が鈍くなる。思春期の人や成人の方が、高齢者よりも発症予防効果が高率である。 今回のインフルエンザパンデミック騒動により、日本でも妊婦へのインフルエンザワクチン接種が認可された。季節性インフルエンザ、今回のパンデミックインフルエンザにかかわらず、妊婦がインフルエンザに罹患すると重篤化するのは、妊娠後期(第三三半期)である。第二三半期の終わり頃に接種すれば、妊婦のインフルエンザ重症化予防だけではなく、生まれてくる子どものインフルエンザ予防にも効果が認められている。  ワクチンは医療経済的に優れた効果が示されている。日本では、水痘ワクチン、ムンプスワクチン、Hibワクチン、7価肺炎球菌ワクチン、HPVワクチンを定期接種しないことで、毎年約1,500億円の疾病負担費用がかかっている。優れたワクチンを定期接種化することで、多くの人が無料で(または安価に)接種でき、日本の医療負担が軽減され、同時に日本のワクチン技術の開発も期待される。


© Last Update:2010/3/11
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